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ミュージカル『イザボー』感想

年末年始に繭期強化期間を過ごしてからというものの、現在進行形で繭期を拗らせている私にとって、この期間の末満作品は楽しみで仕方ありませんでした。ようやく行ってきましたよ……関西のフランスに!!笑*1

期待通り満足度の高い観劇体験でした。末満さんとワタナベエンターテインメントで展開していく、Musicals of Japan Origin project 「MOJOプロジェクト」今後が楽しみです。

 

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https://isabeau.westage.jp/ 

ミュージカル『イザボー』

作・演出:末満健一

音楽:和田俊輔

 

2/10の「ふうとの日」にオリックス劇場にて観劇。

巷では「東のブリリア、西のオリックス」と悪い意味で言われる劇場がドンピシャだった本作。オリックス劇場、1番の難所が硬すぎる椅子で、終盤は各所でみんな座り直してるのか、ギシギシ聞こえる始末…… 昨年、大阪はメルパルクホールが閉館し*2、劇場が減っているわけですが、オリックス劇場に当たる頻度が増えるのは嫌ですね。大阪の劇場だと、シアタードラマシティが好きです。好みが分かれてる印象はありますが、WWホールも好きな方です。

さて、感想に移りますが、今回一回の観劇のみで書いているので、ストーリーの咀嚼はあまりありません。(WOWOW配信も決まりましたし、)今後見返してストーリーなどは深めていきたいと思います。

 

MOJOプロジェクトの堂々たる1作目

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宣伝映像の時から使用されていた楽曲であり、本作のメインテーマ曲「The Queen!」からミュージカル作品としての掴みがバッチリで、個人的にはこの時点で半分くらい満足しました。どの舞台作品においても、掴みの10分で良し悪しが決まると思っています。末満さんが本格ミュージカルとして初めて作演出をしたのが、TRUMPシリーズの『マリーゴールド』という認識ですが*3、5年ほどの時を経て、特にミュージカルの掴みに磨きがかかったなという印象がありました。思わず、望海さん演じるイザボーが出てきたタイミングで、ヅカ様式美の拍手が客席から出てましたね。あまりヅカ様式美を別製作に持ち込まれるのは、個人的に好まないんですが、あれは拍手したくなる笑

また、海外ミュージカルを含め何十回と再演を続けるミュージカル作品以外、特に新作ミュージカルは「曲が耳に残らない」と言われがちだと思うのですが、『イザボー』の「The Queen!」に関しては耳に残るイントロとキャッチーなメロディだったかと感じました。パンフレットのインタビューや、過去のインタビューでもよく見かけるように、和田さんの楽曲は、ミュージカル作品によく出る役者さんこそ難しいと感じる楽曲らしい。楽曲は全体的にロック調(ジャズロックというのか)で、確かに中盤なんかは、早口で畳み掛けるようなナンバーもあったので難しそうだなという印象を受けました。その点「The Queen!」に関しては、イザボーが歌い上げるメインのパートがメロディも歌詞もシンプルで耳に残りやすかったです。

舞台美術や衣装メイクも派手でした。舞台装置はバームクーヘンのような穴の空いた円形装置の三重構造で、人力でよく周り場転を行うといったものでした。これによって暗転がほぼ無いのが見事でした(が、オリ劇の椅子の硬さで座り直すタイミングが無いのは苦痛でした…椅子が悪い)。グランドミュージカルでは舞台そのものの盆が回る光景をよく見るので、「盆がよく回る舞台だな」と思っていましたが、しっかりみると全部人力。パンフレットを読むと、この舞台装置の初期イメージが「薔薇の花」だったそうで、確かにそう見えなくもない。面白い装置ではあるんですが、ヒヤリハットの心と、注意力散漫な動体視力があると、あんだけ装置がぐるぐる回ると落ち着いてみてられないなという感覚がありました。衣装の裾が挟まらないかなとか、役者さん転けないかなとか余計な心配をしてしまう笑

衣装はイザボーが全体的に赤い色調の服、アンサンブルを含む他の人物は黒基調、イザベルは白、ジャンヌが甲冑に青の差し色といったカラーバランスも分かりやすい。友人と感想を共有し、なるほどと気付いたのは、イザボーの衣装は基本的にアシンメトリーになっていて、彼女の支離滅裂さとリンクしているという観点。また、アンサンブルの男女が全員パンクロックさを感じる甲冑テイストな衣装でした。アンサンブルの女性陣もこの格好になることで武力行使の場面など、所謂男性が立つ場面にも配置されていたのは、意外と他に見ない演出だったのではと思いました。面白い演出という点では、侍女の結婚祝いの場面だったか、バンドメンバーも「演奏者」の役で舞台上にそのまま出ていましたね。昨今では『ある馬の物語』*4でも似た演出を見ましたが、こういう演出好きです。

これは人によっては好みが分かれそうな演出でしたが、1幕2幕ともに開幕前の客席特別演出がありました。1幕前では劇場マナーを入れ、時に観客と会話し、1幕2幕前共にコーレスのように、観客も声を上げるといった演出を入れていました。小劇場出身且つ2.5舞台の文化に明るいであろう方の演出といった感じでしたが、これもミュージカル界にとっては新鮮味のある演出になるんでしょうか。客席がフランス国民として扱われている没入感的な演出でもありましたが、題材や物語がもっと違えば、客席の当事者意識が強くなる演出になり得るなと感じました。

 

私を私たらめるもの

肝心のストーリーですが、作品の良し悪しや分かりやすさ分かりにくさに関わらず、自分は一回こっきりの観劇では感想が上手くまとめられないタイプだと、絶賛痛感しているので、あまりこの点が深められません。大阪千秋楽でも配信があると思い込み、ここ数年の配信の恩恵に甘んじていた……この現象を「ストーリーに不備があるからでは?」とも捉えられるかとも思ったのですが、大まかなストーリー性、メッセージ性は掴んでいると思うので、ストーリー性の不備が原因ではないかなとは思っています。では、難解であったかと言われるとそうではなく、どうして今その言葉と行動なんだろうとか、イザボーの幸福追求と絶望の決定的な部分の押しが甘い気がするといった疑問は残っています。この辺りは、4月にWOWOWで配信される分で見返して咀嚼したいなと思います。

イザボーという人物が、王族の女としての宿命を受けながら「私は幸せ?」と問いかける過去の己の赴くままに進む。その行動の先に、トロワ条約の締結という「フランスは堕ちた」の最たる部分へと行き着く。シャルル7世(甲斐翔真)が、イザボーの人生を知っていくという形式で、シャルル7世とヨランド(那須凛)の語り調でこの物語は進行します。劇中「後世では最悪の王妃と呼ばれる」というニュアンスの言葉がたびたび飛び交うわけですが、これもあくまで他者による視点により形容されるもの(ちなみに私としては史実予習をした時にも、そんな言うほど最悪かなと思うなどした。勿論当時の価値観はわからない)。当のイザボー本人には、人生の葛藤のターニングポイントの数々があり、紆余曲折あれど彼女なりの幸福追求と復讐の生き方があった。それらを悪だと他者が断定するならそれでもいい。しかし、私だけが感じる愛や希望や絶望は私が断定するもだ。細かい台詞覚えていないので参照できませんが、1幕2幕ともに、終わりのイザボーの台詞にこの作品における彼女の強さと生き方肯定を感じました。

……とは言うものの、イザボーという人物が血生臭い歴史上に立っていることは間違いなく、彼女の生き方には支離滅裂さが生むエゴという印象を持った(王族の生き方など庶民にはわかるはずもないのでやや乱暴な言い方かなとは思うが……)。「フランスは1人の女によって滅ぼされ、1人の少女によって救われた」と劇中でも語られるようにして、ジャンヌ・ダルク(大森未来衣)が登場する。この対比が、イザボーがエゴ、ジャンヌが自由といった紙一重の違いを感じた。興味深いことに、劇中おける幸せになろうと目を輝かせていた頃のイザボー、少女イザベルを演じるのがジャンヌも同じ大森未来衣さんである。この演出により、イザボーのifとしてのジャンヌという想起もあるだろう。大森さんのもう一つの役に、ヘンリー5世の元に嫁ぐこととなるカトリーヌも彼女が演じているのも、イザボーの周辺に立つ希望のアイコンのようなものを感じた。

 

絶望に膝を着き始めてからが本領発揮

はい、望海風斗さんことです。末満さんと望海さんの対談で思わず笑ってしまった文章を引用しますね。

在団中、私がいただく役は物語の途中で絶望して膝から崩れ落ちることが多くて、私もそこからが“自分の時間”だと思っているところがあるんですね。だからきっと皆さん、今回の「イザボー」を観に来られるときは、泣く準備をして、舞台上でうずくまってちっちゃくなったものをオペラグラスで観ようと期待していらっしゃると思うんです。でも、そんな“準備”を覆したいんですよね。*5

バレてる笑

本作、情報解禁時から望海さんと末満さんよく知ってるオタクの皆さんは一斉に立ち上がりましたよね。私も待ってましたとはしゃぎ散らかしました。私が宝塚時代の望海さんの作品で好きなタイトルは『ひかりふる路』*6と『BUND/NEON上海』*7です。ちなみに先日の私のポストはこちら。

 

そんな妄想もしてしまう笑 インタビューで望海さんのおっしゃているとおり、期待した姿も見られたし、新しい姿も見られたというどちらともの満足感もありました。トロワ条約締結場面のあの表情が忘れられません。……というわけで、こういうダークな望海さんが好きなこともあって、宝塚退団後のお芝居は初めてしっかり見ましたが、男役感もなくナチュラルで、もう説明不要の歌唱力による場面は至高の時でした。オリックス劇場の屋根、飛んだね。

歌唱力という点では本当に歌うま揃いで、始まる前から「望海風斗と上原理生は劇場が歌唱力で吹っ飛ぶけどいいか?」と思ってましたが、体感はふっとんでました。その上、今回初めましての役者さんでしたが、ヨランドの那須凛さんは圧巻でした。望海さんと歌唱力と声量で張り合える方、いるんですね……しかも、ミュージカル畑じゃないっぽいので、非常に驚きました。圧倒的に発声が良く、お芝居も個人的に好みでした。他の役柄も見てみたいです。初めましての役者さんだと、オルレアン公ルイの上川一哉さんも印象的でした。もう出から胡散臭い奴来たぞ〜!感が最高で、ワルイ男が好きなオタクはうっかり好きだなと思ってしまうので、笑いながら見てました。上川さんは最近まで四季にいた役者さんなんですね。四季も侮れない……

やっと現地で見る機会ができたのが、甲斐翔真さん。ようやくエグゼイドの印象からミュージカル俳優の印象にチェンジできる笑 まだ若手の類だと思いますが、この数年で充実したキャリア積み重ね、安定感があり、良い意味で個性が強すぎない主人公系が様になるんだなという印象を持ちました。これからのミュージカル界を牽引する若手なんだろうなという感じなので、応援したいですね。先述しましたが、大森さんもオーラがあって印象的な役者でした。絶賛繭期期間ですが、新約LILIUMは見ていないので、こちらも気になりますね。

また、カーテンコールにキャストだけでなく、バンドメンバーや音響照明含めたスタッフ陣をクローズアップした紹介になっていたのがすごく良かったです。こういうのを大事にする舞台はやっぱり信頼できます。

……というわけで、無事に日本初演となる日本オリジナルミュージカル『イザボー』無事に幕を閉じました。MOJOプロジェクトと名を打ってる以上、おそらく今後も続くと思うので、今後も楽しみです!

最後にこちらのワクワクするポストをば……

書き方のせいで「妖怪のミュージカル」が気になって仕方がない笑