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「演劇ドラフトグランプリ2023」講評&感想

昨年の4作が綺麗に4者4様過ぎたので、今年はどうなるかと期待する反面期待しすぎではとも感じていたのですが、何を野暮なことをと過去の己を恥じるぐらい、今年もとても素晴らしかったです。

先日まとめた、昨年の演劇ドラフトの講評&感想はこちら

charmy-coroge.hatenablog.com

 

https://www.theater-complex-original.jp/engeki_draftgp/ 

「演劇ドラフトグランプリ2023」

配信:シアターコンプレックスTOWN

総合演出:植木豪

 

開催概要*1

選ばれし5名の座長たちによるドラフト会議ー。

座長により指名されるのは、共演者として一緒に演劇を作る俳優、演出家ー。

ドラフト会議にて結成される5チームが、上演時間や舞台形式など決められたルールに則って、オリジナル演劇を製作します。

完成した作品は、2023年12月日本武道館にて行われる1日限りの演劇の祭典「演劇ドラフトグランプリ2023」で披露いたします。

審査員と観客による投票で、グランプリを手にするチームは果たして…!? ドラフト会議の模様からグランプリ当日までを、シアターコンプレックスTOWNでお届けいたします。

 

公演ルール

・各劇団の演目は20分以内

・脚本は各劇団オリジナルで作成

・衣装は1人1ポーズのみとし、衣装チェンジはなし

・大道具は使用不可 役者が自分で動かせる道具のみ使用可

 

前振りが長くてもしょうがないので、早速各劇団別の講評と感想です。

 

劇団『びゅー』 演劇テーマ「天気」

 

タイトル:天へ態を招く

演出・脚本:松崎史也

キャスト:高野洸(座長)、北川尚弥、高木トモユキ、古谷大和、松島勇之介

 

【講評】

トップバッターに相応しい快活さで、360度舞台の客席を巻き込み、日本武道館の日本国旗も上手く演出に組み込んだ作品。天照大御神スサノオ姉弟の絆を、現代風なキャッチーなキャラ付けがされ、且つ神話独特の突拍子もない展開をコメディと柔らかい作風落とし込み表現されていた。

十分わかりやすく神話物語をアレンジできていたと感じるが、天照大御神の心情の変化や展開には急と感じる箇所も多く、テンポの良い芝居がトップバッターと題材の相性にはやや悪かったとも感じる。

また本作が秀でていたのは、衣装メイク、小道具の使い方にある。一目で厳かな立場の者と分かる煌びやかな風貌と、それぞれの特色に合った色分けや衣装のシルエットにこだわりを感じてよかった。岩戸を小さなテント(?)にしたり、iPadを使ったり(鏡に見立ててるのかな?)、面白く秀逸な演出だった。

【感想】

松崎さんの作品好きだと昨年の演劇ドラフトから一年経ち、色々と作品を見た上で実感した。このシンプルな快活さが好きだな〜!天晴れでした!!松崎さんの演劇ドラフトは「“天”と日本史シリーズ」みたくなるんですかね。

そして、演出家も役者も違うのに、洸さんはまた神の役でしたね笑 多分そういう唯一無二みたいな、圧倒的主人公オーラみたいな素質を持っているんだろうなと感じています。ハイライトは、ヒプステのオタク的には「一旦やめていいぜ!」に親近感が湧いてしまうこと。

講評と被るけど、断トツで衣装メイクが良かったです。それぞれに個性のある派手メイクと、踊った時に綺麗に揺れる衣装が素敵でした。特に知恵の神のビジュアルが好きでしたね。「やさかりの勾玉」あたりの単語が重なるセリフをスラスラっと言える、知恵の神のこと北川尚弥さんに拍手!

 

劇団『国士無双』 演劇テーマ「宝箱」

 

タイトル:君だけの宝物

脚本・演出:中屋敷法仁

キャスト:染谷俊之(座長)、糸川耀士郎、椎名鯛造、鳥越裕貴、長妻怜央

 

【講評】

シュールコミカルとシリアスが両立していて、シリアスにグッと感情を引きずられる作品。12月に合わせたクリスマスが題材で、本当のプレゼント=宝物とは何かを見るものに訴えかける、メッセージ性の強さがあった。ラストの「信じる」という言葉に畳み掛かる、それぞれの立場の思いや願いに、言葉遊び巧みさ感じた。

この物語における「大事なことは、良い子にプレゼントをあげることじゃない、悪い子にプレゼントを与えないこと」を中心にした、良い子とは悪い子とは、その子に必要なものとはといった問題提起が、一筋縄ではいかない回答の模索に現代の写し鏡を感じた。最後にサンタが提示した言葉も、「良い子」の正しさとして推し量れず、どこまでも願いであること。 非常にまとまりが良かったため、強いて言うなれば一部のシュールさが緊張感を壊しかねない感があったこと。

【感想】

終わって直後の感想が「中屋敷さん、勝ちを取りに来たな……ッ!」でした。情の揺らぎで中屋敷さんにグランプリをとよぎるぐらい、去年の作品と比べたら圧倒的に好きでした。多分、順番が恋のぼりと逆だったらグランプリもあったんじゃないか……?とも感じた。でも中屋敷節(というか柿喰う客*2っぽさ)は去年のほうが強かったなとも感じて、より広く観客に馴染むように調整したのかなとも思い、個性と万人受けとは……とも感じたり、難しいですね。

物語の内容は、高校現代文の教材であった『バグダッドの靴磨き*3』を思い出す内容でした。『バグダッドの靴磨き』と違うのは、命を奪える道具を持つことの重さをこの物語の中で説いたこと。しかし一人間の善悪の押し付けではなく、どこまでも願いであることで終わったのが良かった。

あとはもう、椎名さんと鳥越さんにトナカイコンビをやらせたことが最高で賞受賞です。1番の歳上がトナカイやってるのよ……笑

 

劇団『品行方正』 演劇テーマ「待ち合わせ」

 

タイトル:愛のシンクロ

脚本・演出:三浦香

キャスト:七海ひろき(座長)、加藤大悟、唐橋充、後藤大、廣野凌大

 

【講評】

とある待ち合わせ場所に、何故か同じ女がきっかけで出会ってしまった男5人が「愛のシンクロ」で結束するドタバタ劇。「小劇場的」な味わい深さのある滑稽さ、しょうもなさが怒涛のように飛び交う。そもそも何故、シンクロ日本代表を要素として持ってきたのか、どうして記者が忍者の格好をするのかなど、ツッコミ出したらキリがないぐらいの、「こんなの誰も思いつかない」が渋滞しているバカバカしさが、いっそ清々しいぐらいの熱量を感じた。

この要素の渋滞さを、華麗に演じた5人の役者の底力を感じて笑いが止まらなかった。また劇中で何度もダサいと称されている、「愛のシンクロ」の曲と振り付けのダサさも見事であった。 しかし、このドタバタ感と一見まとまりのないギャグが人を選ぶ空気感であったとも感じている。

【感想】

好みだけで言ったら圧倒的に本作です。こういうしょーーーーもなさすぎるトンチキドタバタ劇が大好きすぎるんだよなと泣いて喜びました。三浦香さんは『最遊記歌劇伝*4』でとてもお世話になり、昨今ではテニミュ4th*5を見ているのですが、どうもこれは合わない、どうして原作のこの場面を削ってまで日替わりギャグネタの尺を?と、思うことが多々あったのですが…やっぱ根底は好きみたいです。何よりこういうしょうもない歌を作ったり、とんでも要素持ってくることに長けている、常人じゃ思いつかん笑(語弊があるので補足すると、シリアスなお芝居の見せ方も絶妙で好き)

さて、そもそもここはパーティから濃すぎる面々が集まっており、その濃い要素を余すことなく披露してくれた感じがあり、パワーを感じました。七海さんを、ただカッコいいだけの男役にはせず、どう見ても冴えない道のりを歩んできたというキャラ付にした絶妙さ、しかしそれでもカッコいいという謎。面白かったですね……そして七海さんと唐橋さんでシンクロダンスが見られるなんてどんな世界なんですかね。愛のシンクロの音源化を切に願います。スイスイスラスラススッス〜〜〜

 

劇団『一番星』 演劇テーマ「アイドル」

 

タイトル:Last Shining Ray

脚本・演出:川尻恵太

キャスト:荒牧慶彦(座長)、木津つばさ、高橋怜也、福澤侑、松井勇歩

 

【講評】

「12.5 アイドル事変」によってアイドル活動が禁止され、アイドル活動を行ったアイドルたちが、収監され角刈りにされてしまうというトンデモ世界を舞台にしたエンターテイメントコメディ。「2.5次元舞台」ジャンルもアイドル性を担っている部分もあり、「2.5次元舞台」を主戦場にする俳優の中には、アイドルやアーティスト活動を並行して行なっている人も多い。こういった、ファンのニーズにも合致する部分も多く、ことこの企画には特に観客の心を掴む要素が多かったのではないかと考える。

さらに、日本武道館でライブを行う光景を会場そのものを使っていたのも、胸が熱くなる展開だった。楽曲、ダンスもキャッチーでクオリティの高いものとなっていた。

「一番星」の使い方で、手持ちライトを持って掲げ、暗転時には光のすじやラストで流星のように動く効果を発揮していたが、手持ちライトの小ささゆえに少しわかりづらい演出ではないかと感じた。真上に掲げていることもあり、席によっては特にわからなくなった場面もあったのではないだろうか。

【感想】

客席があってはじめて完成形になった感は、劇団びゅーと比較すると一番星に軍配が上がった気がする。何故なら、板の上も十分面白いけど、初見のはずの観客に謎の練度が面白かった。流石、心得のあるオタクたち。あんなどしょっぱから黄色い声はなかなかでないよ。10月に『BREAK FREE STARS*6』を見た記憶が新しいがために、「なるほど、アイドルは害悪であるの世界だ」とすんなり入ってくるのあったが、真面目な声で12.5 アイドル事変と言われると流石にツボる。

終わりの挨拶の川尻さんの「コメディででっぺんを取りたい!」には感心しました。今年はコメディテイストに寄ったといえど、コメディって1番難しいジャンルだと思っているので、そう宣言する川尻さんはとても素敵だったし、ぜひ次も見たいと思った。こちらLast Shining Rayの音源が欲しいですね、めっちゃ良い曲……ちなみに私はほゆ推しですかね。らぶらぶ愛しか勝たん。

 

劇団『恋のぼり』 演劇テーマ「初恋」

 

タイトル:こいの壕

脚本・演出:私オム

キャスト:玉城裕規(座長)、石川凌雅、小西詠斗、萩野崇服部武雄

 

【講評】

1944年〜1945年の沖縄戦を舞台にし、首里城下司令部の壕を掘る学徒たちによる「初恋」を題材にした回想譚。4人の学徒たちの青春の淡さを感じつつも、隣り合わせにある戦時下の緊迫感には、劇中では描かれていない戦禍の模様を想起させ痛く辛い感情を駆り立たせる。燃える首里城からの脱出に、敵への降参の白旗ではなく、5月に誕生日を迎えるあの子の対しての降参のこいのぼりと表現。

「お前の“こい”はかなわない」など、ダブルミーニング的な言葉の飛び交う盛り上がりと、最後に年老いた山城が「好きだ」と変わらない1つの想いを伝える幕引き。重たい舞台を扱いつつも、重たすぎずしっかりと観客の心を揺さぶる作品であった。

80年も経たない前の史実ゆえの繊細な部分があり、どこまで史実に忠実でどこをフィクションストーリーとするかが難しいところだと感じた。私個人としてはフィクションの部分はフィクションとして汲めたが、細かい所々の表現を疑問に思う人はいるだろうとも感じた。

【感想】

ずるいね、最後にこういうしっとりとした作品を持ってこられるのは…… 去年に引き続き「最後の演目」「史実を扱ったシリアスさも兼ね備えた物語」「イケおじがメインにいる」がグランプリになってしまった。けど、去年に引き続き、納得のグランプリなんですよね。思うに2.5次元舞台が主戦場の俳優陣が、あまりやってこないタイプの配役や物語のようにも感じて、「こういうのも良いよね」と感じるのも良かった(これに関してはこの作品に限らずだけど)。照明の使い方も過去を映していたり、緊迫感のある心情とリンクした冷たさを映していたり、とても綺麗でした。

最後に老年の山城が、玉城に「好きだ」と伝える場面に、玉城役をするのが、それまで若き日の山城を演じていた玉城裕規さんなのも見事な見せ方。 思えば、玉城さんは沖縄出身だったので、(事前配信など裏側をあまり追ってないので既出話題でしたら申し訳ない)この作品を作るにあたって、色々な思いを乗せられたのでしょうか…… ここ数年見る機会が増えた、小西詠斗さんのお芝居が好きだなあとも改めて思いました。お顔の可愛さから、可愛い系の役が多い気がするんですが、本作はそういったタイプでもなかったので新鮮でした。

 

「演劇はこの空間で完成する」

今年は特別審査員に中川晃教さんがいたのが個人的にハイライトですね。私も日本武道館でアッキーさんの国歌斉唱聴きたかった。よくよく考えると、去年は国歌斉唱してないから、じわじわとツボにくる演出なんだよな笑

そんなアッキーさんも仰ってましたが、演劇はその場の空間で完成するもの。今年は観客を巻き込んだ演出の作品も多く、笑い声も上げやすいような環境で、より観客があっての演劇という色が強かった気がします。かといって、エンタメ性に振り過ぎずあくまでも「演劇」であることに、今年も真摯に取り組まれてたこの企画が愛おしかったです。

いちオタクが何を大層なってことを言うんですが、昨年のも含め戯曲本を出して、未来の演劇人(例えば高校演劇の学生たち)に渡してみてはいかがだろうかと思ったりもする。そうでなくても、オタクは戯曲本が欲しいです!そして、来年もぜひ、この企画が開催されますよう!

 

12/13までの配信はコチラから!

www.theater-complex.town

 

余談

演出家ディビジョンフォト好きすぎる。