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宝塚星組『RRR』『VIOLETOPIA』感想

ザ戦戻りの私、諸々で頓挫した『1789』のこともあり、大劇場公演を見るのは、花組公演『巡礼の年』『Fashionable Empire』以来となります。大劇場公演を、ライビュ含め丸一年縁がなかったんだなと振り返りました。宝塚を熱心に見ていた時期も、星組さんは大劇場公演を劇場もライビュでも見ていなかったので、やや新鮮な心持ちでライブ配信を鑑賞しました。

 

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https://kageki.hankyu.co.jp/sp/revue/2024/rrr/index.html

星組公演

『RRR × TAKA”R”AZUKA ~√Bheem~』  
 脚本・演出:谷貴矢

レビューシンドローム『VIOLETOPIA』
 作・演出:指田珠子

 

ライブ配信で1回鑑賞のみの感想となるので、色々間違えている点あるかと思います。

 

『RRR × TAKA”R”AZUKA ~√Bheem~』

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映画の『RRR』は話題になっていたので、興味が湧き一年前ぐらいに見ました。見終わってすぐの感想は、「概ね宝塚とHiGH & LOW」でした。弱き者が手を取り立ち上がり、愛する国と人のために戦い、身分違いの友愛をも手に入れるという要素は、星組の前回公演『1789』と似ているなと思います。インド映画特有の、EDでは敵も味方も関係なくド派手に踊り歌うのは、宝塚の芝居とショーという構造に通ずるものがあると思います。そして、ド派手なアクションを潜り抜け、すれ違いイベントを超え、男同士の熱い友情をぶつけ合うのは、HiGH & LOWで馴染みがあります。なので、どちらも好きな私にとって『RRR』はとても楽しめた映画でした。

……ですが、宝塚で上演が決まった当初の私は「いや! 確かに『RRR』は概ね宝塚とは言ったけど、宝塚でやれとは言ってない!」という気持ちでした。昨今の宝塚は、特にオリジナル作品をやらないイメージがありました。再演や原作付きの作品では、元の役のイメージが先行して、当て書きができる環境の宝塚では勿体ない選択肢だと思っているからです。原作付きでも、「線の細い、きらびやかで美しいイメージ」に外れないものを選んでほしいという好みもあるので、『RRR』が宝塚的なのは要素であって、視覚要素はむしろ対極的なので違うでしょうと思いました。あとは、特に星組の礼さん舞空さん(「ことなこ」)は当て書き作品が少ない、『RRR』だと「ことなこ」がカップルの話ではないという複雑な部分もありましたね……というわけで、前振りが長くなりましたが、幕が開くまではあまり前向きではない演目でした。

でも悔しいかな、完全に私の負けです。「『RRR』と宝塚、いくらなんでも相性が良すぎるだろ!」でした。(それはそれとして、「ことなこ」にオリジナル作品がないのは遺憾だぞ!)。

星組の皆様の熱演はもちろんのことですが、今回最大の功労者は演出の谷貴矢さんでしょう。宝塚に合わせた原作物の演出作品で、これほどすごいぞと思ったことも昨今なかなかありません。私があまり本数を見ていないのもありますが。貴矢さん、今までオリジナル作品も面白いものも多く、視覚演出や役や装置、ポスターのデザインもハイセンスなので、原作付きでも面白く見せることができるとは……! これからも期待して安心してみられる演出家さんです。

演出面で巧いと感じたポイントは、① 3時間映画を1時間半に収めた再構成力 ② 映画の見どころだった炎や水、アクションの舞台上での見せ方 ③ 『RRR』と宝塚の親和性の的確な拾い方だったかと思います。

①については、多少駆け足を感じたり、都合よくワープしすぎだろとは思ったものの、3時間映画の中の3、4個ぐらいある見せ場を一通り抑えていました。無かったのは、冒頭のラーマの100人斬りみたいな場面だったり、鉄道が爆発したり、野生動物が駆け回ったり、肩車をしなかったり……所謂飛び道具ぐらいだったかと思います。この飛び道具がなくても、該当の場面は成立するんですよね。ラーマの「生死は問いませんか」はあったし、ビームとラーマの出会いの子供救出劇はあったし、屋敷への潜入はあったし、ラーマの救出はあった。

②の演出は秀逸でしたね。今年の何かの舞台演出賞を受賞していいと思う。自然物体や概念を人間が布や扇を使って表現するのは、舞台作品にはよく用いられるとは思いますが、布も大小さまざまに使い方も流石でした。「WATERRR」「FIRRRE」の配役設置で、宝塚ならでは群舞で、配信だからわかったポイントですが、表情も絶妙だったんですよね。あの表情があって、より勢いを増しているなと思いました。あと、羽扇に電飾をつけたものは初めて見ました。ビームとラーマの出会いの子供救出劇で、銀橋を使う演出は見事でした。かつて、銀橋をあそこまで効果的に使った演出があったろうか、いやない。

③ 『RRR』と宝塚の親和性の的確な拾い方については、究極は「私が『RRR』を見たときにどの部分が宝塚っぽいか感じたかが、寸分狂わず抑えられていた」という話なのですが、裏返せば「宝塚のゆめゆめしさを損なうような要素は、極力触っていなかった」というところだと思います。過去に原作ものを宝塚で上演するにあたって「わざわざその描写を宝塚でやる?」と感じたものがあったので、「宝塚にも宝塚らしさがある」が守られていて良かったと思いました。これは私個人の好みの話かもしれませんが。

ザ戦以降、過去作の星組公演を見ているとはいえ、最近の星組さん(というか現在の宝塚)はやはり新鮮でした。礼さん暁さんもどちらもお顔立ちに可愛い印象があったので、髭もじゃの筋肉隆々としたビームとラーマとはイメージが天と地ほどに差があると思っていたのですが、逆に振り切って宝塚のビジュアルで作っていて良かった。上演が決まった時に、前述の「宝塚でやれとは言ってない!」と同時に、「なるほど!こっちゃんとありちゃんでナートゥがやりたいのね!」と思ったので、ダンスに秀でたお二人のナートゥは圧巻でした。予想以上にキレッキレで驚いた。にしても、久々に見た礼さん暁さんは、ちょっと引いてしまうぐらいお痩せになっていたので、心配になりました……そりゃ、2度とナートゥやりたくないと千秋楽アドリブをぶっこむか(語弊)

星組さんは『龍の宮物語』をリピートしてるので、天華さん天飛さんに注目しがちだったのですが(加えて天華さんは退団公演だし)、ビームの仲間側で一緒にいたのにはニッコリでした。天華さんはこういう快活で人情深く、ちょっと茶目っ気がある感じが、多分ご本人の持ち味に合ってて、生き生きとするんだろうなあと思いました。天飛さんは端正な顔立ちと、瀬央さんに続く目力の芝居ができる人だと思うので、今後もワクワクしてます。あと、ビームの仲間では、ラッチュが稀惺さんね。綺麗な顔の男役さんだな~誰だろ~と調べて名前を確認し、流石の私でも覚えてました、入団当時のニュースを。ちゃんと花があって、のし上がってきててすごい。顔と名前が一致しました。小桜ほのかさんのキャサリン詩ちづるさんのシータ、あと前情報で声が似てるとよく目にした、瑠璃花夏さんのマッリもそれぞれ良かったですね。星娘つよいなあ~。娘役といえば忘れてはいけない、ジェニーの舞空瞳さん。ほーんとに可愛い! ジェニーの大人っぽさとはちょっと違うかなという感じがありましたが、やはりそこは礼さん暁さん、そして極美さんとのバランスがあると思うので、宝塚のジェニーとしては問題なしかと。映画『RRR』でもナートゥで、ドレスの女性たちが一斉に出てくる場面が大好きだったのですが、舞空さん筆頭に見せるシーンがとっても好きでした!ありがとう! そういえば、ジェイクは後半にシーンが追加されて、憎めないキャラに変えられてましたね。極美さん演じる気品ある爽やかさもあり、美味しい役どころに感じた。ところで、極美さんは月城さんや壮さんに雰囲気が似ているような?今まであまり思わなかったけど。そして、少ないシーンながらも強烈なかっこよさの爪痕を残したのは、間違いなくヴェンカタの朝水さんでした。映画でもかっこよかったしな……

そして、最後にエッタラジェンダで完璧な締め。これは私が宝塚に慣れて感覚が鈍ってるせいかわからないけど、エッタラジェンダの締めに「なんか急にお祭りエンディング始まったぞ」感なくてナチュラルだったのが地味にすごいなと思ったところ。やはり『RRR』は概ね宝塚だった。

 

『VIOLETOPIA』

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『RRR』よりもよっぽど衝撃的だった『VIOLETOPIA』

以下、手元にパンフレットも歌劇もないので、ニュアンスや固有名詞を間違えていたらごめんなさいと前振りを入れます。

前評判が割れている印象でどちらかというと、「私の好みじゃなかった」ニュアンスの感想が散見されて、指田さんのデビュー作なのにやはり話題作に押されたかという感覚があったのですが……自分の好みを振り返った。そうです、私は暗い作品が好き。『VIOLETOPIA』 は(多分)「明るく楽しいレヴュー」ではないし、一貫したストーリー性があり、個々の場面もある。頭を空っぽにしてただただ楽しめるショーとは言い切れないので、良くも悪くも好みが分かれているんだなということが分かった。友人の言葉を借りるなら「ロマンチックレビューが好きな人には刺さらない」ショーだなと。でも私は大好きです。

ユートピアディストピア・・・。「TOPIA(トピア)」は「場所・郷」を表す言葉。「Violette(スミレ)」が、110年咲き続ける劇場、Takarazuka。そこにはいつも何かに魅了された者たちが集う。喝采、憧憬、熱狂、孤独、そして希望・・・。 時代や国を超え、劇場の光と闇を描く豪奢なレビュー作品。異界「VIOLETOPIA(ヴィオレトピア)」に棲むもの達が、宝塚歌劇110周年の幕開きを盛大に祝います。*1

恐れずとも作品紹介のとおりの作品でしたね。「劇場の光と闇」と言うものの、闇が強かったような。須らくそのとおりで、光と闇は表裏一体、光あるところに影はできるという思想を土台にしているんだろう。なおかつ『龍の宮物語』や『海辺のストルーエンセ』でもやや感じたが、明るく見える場面を滑稽に描くのが巧い。そして、観客に想像させるような作りや余白を作る印象もある。これと対極が上田久美子さんで、上田さんは観客に想像させる場面を作りつつも、答えは決まり切っているという印象があったので、指田さんはこの点、自由さを感じる。

あとはこの言葉選びが的確か微妙ですが、指田さんはアーティスト寄りな演出家なんだなあと感じ取ったのが、全体を通して「思想」を感じるところ。ショーでこの点が強いと好みが分かれるのかなあと思ったりなんなり。「劇場とは虚構の生まれる場で、時には見世物でもある」と思わせるようなサーカスの場面なんかは特に。あとは、「男役さんの女役」とか「トップ娘がパンツスタイルにハット」も『VIOLETOPIA』に関しては、ただのファッションではなく、ある種の風刺なんじゃないかとすら感じてしまう。おそらくこの辺りは、2、3回見て味わい深さの増すタイプのショーだなと思いました。

衣装や装置も良かったですね〜!中詰のリストマニアの舞空さん衣装が可愛すぎるし、舞空さんの華やかな笑顔にぴったりすぎる。舞台写真も可愛かったので、しっかり購入させていただく……! 一貫したストーリー性ある中でも、退団者への見せ場もあって、天華さんの銀橋での場面やエトワールでは泣いてしまった。切れ長で艶っぽい姿がショーで見ることができて満足です。でももう少しいて欲しかったなあ……泣 

ところで……あのサングラスは一体何だったんだろう……昔のテレビ番組の目元に隠し黒線入るやつみたいで、なんかシュールだったな笑

 

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さて、このブログを書き終える前に、「舞空瞳さん 退団」*2という衝撃的なニュースも飛び込んで来ました。かなりライトな私ですら、最初の一報を見てからショックでぼやぼやしています。色々思うところはあるけれども、やっぱり1番は「次回作のあの内容で退団はあんまりだよ〜!」です。せめて、未知数のショーが舞空さんが輝くショーになりますよう……舞空さんと星組に皆さんと、舞空さんのファンの皆さんが笑顔で迎えることができますよう……!