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「演劇ドラフトグランプリ2022」講評&感想

来る「演劇ドラフトグランプリ2023」に合わせ、昨年2022年6月14日に日本武道館にて開催された、「演劇ドラフトグランプリ2022」が期間限定で再配信されている。

昨年、このイベントを配信で見て強く感動し、再度配信がされたこと嬉しかったので、今年の開催が始まる前に、改めて昨年の作品の感想をまとめたいと思う。

他の方のブログも拝見し、「講評」という言葉を使っていることに、確かにこのイベントにはこの言葉のが相応しいと思ったので私も講評と感想に分け、書いていくことにする。

 

https://www.theater-complex-original.jp/engeki_draftgp/2022/

「演劇ドラフトグランプリ2022」

配信:シアターコンプレックスTOWN

総合演出:川尻恵太

開催概要*1

選ばれし俳優達によるドラフト会議、そこで選出されるのは、共演者として一緒に演劇を作る俳優や、演出家……。

人数や上演時間などのレギュレーションに沿って結成された各チームがそれぞれオリジナル演劇を制作し、2022年6月に開催される1日限りの演劇の祭典で、完成した作品を披露します。

その会場は、まさかの日本武道館! 審査員と観客による投票で、グランプリを手にするチームは果たして……!? 

ドラフト会議の模様から本番までを、シアターコンプレックスでお届けいたします。

 

公演ルール

・各劇団の演目は20分以内

・脚本は各劇団オリジナルで作成

・衣装は1人1ポーズのみとし、衣装チェンジはなし

・大道具は使用不可 役者が自分で動かせる道具のみ使用可

 

以下、各劇団別の講評と感想です。

 

『ID Checkers』 演劇テーマ「奇跡」

 

タイトル:キセキの男たち

演出・脚本:中屋敷法仁

キャスト:荒牧慶彦(座長)、赤澤遼太郎、輝山立、定本楓馬萩野崇

 

【講評】

高校3年生の球児たちによる青春活劇。言葉遊びや韻踏で畳み掛ける台詞運びが、駆り立てる緊張感と重なる。投手のフウマには、幼馴染であり対戦校のキヤマへの劣等感があり、奇跡と運命の間で思い悩んでいた。そんな中で、自分の内なる負の感情が試合に出ることを阻止しようとする。

劇中の中で、巧みに比較されている言葉に「奇跡」と「運命」が用いられている。「奇跡」とは変わる運命のこと。信じて立ち向かうことで、大きな奇跡が起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。だからこそ「奇跡」という言葉には希少さや不確定さがある。フウマは奇跡を信じて、運命に立ち向かったことにより、奇跡以上の何かを得たのではないだろうか。大きな「軌跡」にこそ意味があったのではないだろうか。

高校3年最後の夏の試合と自分自身の弱さを乗り越える成長物語が、青春色を強くさせストレートに心に響く作品だった。ただ、内省的な部分と球児達の日常場面が同時に起こることで、少し場面の切り替わりが分かりづらくなっているのではないかとも感じた。また、フウマがキヤマに立ち向かい、運命に立ち向かう動機づけもやや甘いとも感じた。

【感想】

大昔に中屋敷法仁さん*2のワークショップを受けたことがあり、それ以降2.5を含め、中屋敷さんの演劇を見る機会がなかったので、ファーストインプレッションは「懐かしい空気感」だった。また題材も、青春の眩しさを感じる内容で二重の意味で懐かしさを感じた。中屋敷さんが得意とする、巧みな言葉遊びと軽快なテンポ感が心地良かった。

ただ前述のとおり、私にとっては「懐かしい」と感じるテイストでもあったため、「巻き起こせ奇跡!」から始まる一連の仰々しい台詞つなぎが、ややむず痒い演出……多分これは好みの問題。

「ドラフト会議」に合わせた野球が題材で、未来への希望を語る、分かりやすく明るい作劇にはトップバッターに相応しい爽快感もありました。ただトップバッターゆえに、後の印象のがどうしても強くなるので難しいなとも感じた。

輝山立さん、めちゃくちゃ声質も発声も良くて、「奇跡の男」と言われるのに説得力のある雰囲気があって非常に良かったです。あとで三十路と知って震えました。若俳怖い……

これは次の作品にも言えることなんですが、ルールの「衣装は1人1ポーズのみとし、衣装チェンジはなし」に、完全上着で覆ったものは衣装チェンジに含めないんですかね。上着のため、衣装チェンジではないと見做されるんですかね。

 

劇団『打』 演劇テーマ「りんご」

 

タイトル:林檎

演出・脚本:西田大輔

キャスト:佐藤流司(座長)、小西詠斗、椎名鯛造、高木トモユキ、野島透也

 

【講評】

争いによって分断された四つの世界、四つの世界はそれぞれ「選択」「後悔」「革命」「名誉」の林檎を手にし、分断された世界をどうして行くかを宣言し、賛同する者を呼びかける。

しかし、四つの世界は全て人ならぬものであり、宣言はただの願いとなった。分断された四つの世界の人ならぬ者たちは、人として「ここ」にいたいと慟哭し、「世界にはあなたしかいないから、私はあなたを誘拐します」と訴える。

非常に抽象度の高い演劇で、ここで語られる「世界」とは何かが見る者によってことなり、様々な解釈を可能とする演劇であった。 それ故に、一回での観劇では難解でどんな話であったかを整理するには時間がかかる。ことグランプリを決めるにあたっては欠点となると感じた。逆に、何度も咀嚼し楽しめたり、色んな解釈の可能性を楽しめたりという点では、抽象演劇の醍醐味をも感じた。

本作では、殺陣芝居も魅力的な部分の一つであった。ダイナミックな殺陣シーンが入ることにより、抽象度の高い難解な芝居の緩和的な役割ももっていた。

また、「対話」を宣言した世界と「革命」を宣言した世界の役者の、巧妙な入れ替わりも見事であった。特に、役者の顔や声を把握している観客にはトリッキーな演出であったし、把握していない観客でも違和感を感じたり、後の場面の「合わせ鏡」にも繋がる場面であった。

【感想】

私が「演劇とは何ぞや」と思い始めた時期に初めて好きになった演出家が西田大輔さん。諸事情で最近の演目は見ていなくて、久々のオリジナルになったが「あ〜これこれ!これが西田さんの最高にクールな演劇だよ!」と感動しました。つまり4作の中で私に1番刺さったのは「林檎」である。

何より初見で感動したのが「斬られる者にも人生がある」という台詞を出し、この言葉にも一筋縄ではいかない、ともすれば否を唱えるような意味を提示したことである。かつて、舞台『戦国BASARA*3で、アンサンブルのみの殺陣芝居を千秋楽に特別カーテンコールで見せてくださった時に、西田さん本人が言っていた言葉が「斬られる者にも人生がある」だったから……

さて、本作は観客が多様な解釈を持つことにこそ意義があると考えている。私は、本作で出てくる「世界」とは「演劇」であり、「あなた」とは「観客」ではないかと解釈し、「演劇の擬人化的な演劇」だと感じた。冒頭の脚本のト書きを読んでいるようなコロスに始まったり、「皆さんも知ってるように20分しかありません」と宣言していたり、掴みはかなりメタ的。そして分断された4つの世界の話が始まる。

この「分断された4つの世界」も「1つの物語に対する4つの演劇と4つの解釈」と考えると、1つの「演劇」の物語が見えてくると思う。 MC《マスターオブセレモニー(語り手)、マスターコンピュータ(脚本)》が「善と悪が為せる木」を宣言すると、4つの世界(演劇)が生まれ、4つの林檎(解釈)が生まれた。そして、解釈が対立を生んだ。「合わせ鏡であったり」「元は同じ世界が2つに分かれたり」するのも似て非なるもの同士だから。

世界(演劇)が「人としてここにいたいのだ」と嘆く。演劇とは人間無しには存在しないものである。「世界にはあなたしかいないから」と頑なに「あなた」の賛同を求めるのも、演劇には観客である「あなた」無しには存在できないから。

だから、私はあなたを誘拐します

 

『超MIX』 演劇テーマ「虹」

 

タイトル:Luda リューダ

演出・脚本:植木豪・畑雅文

キャスト:高野洸(座長)、後藤大、寺山武志、福澤侑、本田礼生

 

【講評】

宇宙のはじまりであるオオトノチが創った人間世界と、その人間たちに生まれた意思や感情を司る神々(蛇神、龍神、鰐神)による、神話物語的でありながらも、観客にそれぞれの答えを訴えかける演劇。

やや複雑な世界観や争いを台詞で語るだけでなく、ダンスなどの身体表現を多く取り入れることで、どういった対立や葛藤があるかを上手く表現していた。且つ、衣装も各々に個性があり華やかで、ダンス映えのある作りとなっていた。人間が白、オオトノチが黒、神々には色がついた衣装という視覚的な分かりやすさも効果的であった。

テーマである「虹」についてが分かりづらくなってしまったのが惜しい点だと捉える。劇中での「この世にある色の数々」と言われている場面から、舞台床にあたる照明が七色になっていたり、ラストシーンで白衣装に当たる七色の照明であったりがある。十分わかる描写ではあったが、テーマに対しては弱かったと考える。

しかし、該当の七色の照明の当て方を筆頭に、本作ではライティングによる演出が巧妙であったとも捉えている。ダンス・身体表現が多く用いられているからこその、役者に綺麗に当たる角度や色、転換が効果的であった。

【感想】

ここ数年1番見てきて馴染みのある演出家が豪さん。そして豪さんに縁のある役者が揃い、始まる前から「これは踊るぞ!笑」と期待し、期待通りの内容が来た本作。

魅せる演劇」を作るのがとても巧みなのが豪さんの演出だと感じている。照明、衣装、群舞、それらに合わせた立ち位置などが計算されつくされている。よくヒプステ*4のインタビューなどでも聞いた話だが、豪さんの舞台は照明や映像による演出が多い分、稽古場では想像しにくいものも多く、劇場に入って合わせることで、ようやくその全貌の答え合わせになることもあるんだとか……

豪さんが舞台演出がメインの分、どの脚本家とのタッグになるかが肝となるところ。本作の畑雅文さんは、豪さんとは進撃ミュで一緒でしたね(演劇ドラフトのが先ではある)。

実は先述の「林檎」でのもう一つの解釈が、「Luda リューダ」とも一緒になっているのだが、2022年国際問題(ウクライナ情勢)の時事的要素にも触れているのではないかという点。触れているというよりは、解釈を可能にしたという色が強いか。「Luda リューダ」に関しては、耐えない争いのなかでも、平和を願い、今を生きる人間に強く生きることを鼓舞するようなものを感じた。あまり時々に触れると言葉の無責任さが出てしまうので、ふんわりとしておきたい。

話を180度ほど変えた話をすると、本田礼生さんが好きすぎると再確認した(〜完〜)。

ダンスが〜とは言ったがこのチーム、5人とも芝居も良いのでどこを切っても見栄えが良かったです。

 

劇団『ズッ友』 演劇テーマ「地図」

 

タイトル:天を推し歩く

演出・脚本:松崎史也

キャスト:染谷俊之(座長)、赤澤燈、唐橋充、野口準、松井勇歩

 

【講評】

日本地図を作った伊能忠敬の半生を描く、コメディタッチな大河会話劇。義務教育課程を経た日本人ならほとんどが、地図と言えば伊能忠敬と結びつくのではないだろうか。

本作では松平定信高橋至時は名前がでてくるが、伊能忠敬の名前は出てこないところに、観客を信頼した心意気を感じた。

その信頼を確かなものとするように、軽快なコメディ要素はあるものの自然な会話劇で丁寧に作劇されており、誰が見てもわかる伊能忠敬の半生を描いていた。強いて言えば、特別盛り上がるような場面があるでもなく、淡々と話が進む点では盛り上がりに欠けるとも言えるかもしれない。

また、舞台の外周で測量の場面を演出しながら、舞台真ん中では定信と至時の場面を同時に行うなど、段差のある円形舞台を効果的に使っていた。その他にも円形ならではの位置を活かしたスムーズな場面転換を行えていた。

ラストの舞台いっぱいの布地図を広げ、忠敬がその地図を見上げる構図になることで、「己の現在地を知り」「天と星を眺める」ことを見せており、この演劇を語る印象的な場面となっていた。

【感想】

「演劇ドラフトグランプリ2022」のグランプリに相応しい演劇でした。文句無しです。(文句って言うと変な感じがするから不適切な気がするけど、気持ちは伝わってほしい笑)

何故そう思ったかと言うと、4作の中で圧倒的にストレートに伝わる分かりやすさがあったからです。比較で言うと、会話調を用いながらも内省的な場面や、演劇的な非現実性の高い台詞回しの多い1作目、多様な解釈を可能にする難解で複雑さのある2、3作目と、他3作が抽象度が高くなってしまった。故に、史実を扱い自然体な会話劇であったため他3作と明らかに毛色が異なったとも言える。さらに、本作だけがコメディタッチで笑いの場面が多かったのも、観客の心を掴んだ要素だとも思う。

あまり数を見ていないので偉そうなことは言えないが、松崎さんの演出の良さは「無駄の無さ」にあると感じている。2.5次元舞台でも「原作ものの舞台化」に丁寧な印象を持っている(『薔薇王の葬列』*5が良かったです……)。少しネガティブな言い方になると、突出した特徴があるわけではない。

例えば、中屋敷さんなら仰々しさある台詞回しと巧みな言葉遊び、西田さんなら人間離れしたダイナミックな殺陣、豪さんならHIPHOPカルチャーに寄ったダンス身体表現といったような。そういったプラス要素というのが特別ない。

だからこそ、「まっさらな演劇そのものの良さ」が表現されていたと感じている。 このチームは座長の染谷さんに始まり、センターではない役所で光る役者が揃ってる印象なのもあり、落ち着いた空気感に安心するし、コメディ部分すんなりと入ってくる。巧い。

また、主人公を年長者の唐橋さんに持ってきてるのも絶妙の布陣。ここで自己紹介を挟むと、私が1、2を争うぐらい好きな俳優は唐橋充さんです。唐橋さんほど、2.5次元舞台に縁のある役者で「演劇おじさん」と二つ名が似合う俳優はいないと思っている。そんな演劇をこよなく愛している俳優が、「演劇」と名のつくイベントの一つに、主人公として立ち、優勝をする。こんな素晴らしいことない……

当時「唐橋さん、すっごい楽しいだろうな」と私は言ってた。見返して、やっぱめっちゃくちゃ楽しそうと振り返った。だからこそ、いろんな感情を込みで、ラストシーンの地図を見上げる伊能忠敬の演出は、あまりにも美しい一場面だった……

 

「演劇は無くても生きて行けるけど、圧倒的にあったほうが良い」

最後の挨拶で染谷さんが言っていた言葉が刺さって、この文章を書いていると言っても過言ではない。

されど演劇とは一娯楽だ。昨今ではチケット代一万円が当たり前となり、首都圏でしか上演されず、地方は劇場が減り、舞台装置運搬の業者が廃業が余儀なくされるとも言われている。もう、演劇が「東京に住む金持ちのための娯楽」となりつつある。

それでも、観客として演劇のある場所へ足を運ぶのは何故だ。それは、私の心を豊かにする演劇が、私にとっては必要で、演劇を通して知る世界の広さとその楽しさに触れていたいからだ。

演劇ドラフトグランプリでは、斜陽になるかもしれない演劇界に一石を投じる希望が見えた。 少なくとも、私の心にあった「演劇とは何ぞや」の感情に火をつけた企画であった。

 

書き残す場所を見失ったので最後に。「演劇ドラフトグランプリ」が出すべきグッズは、フォトブックよりも、戯曲本ではないか…!?でした。もちろんフォトブックも良かったけどね。

 

おそらく「演劇ドラフトグランプリ2023」が始まる12/5までの期間限定配信かもしれないが、シアコンくんが定期配信してくれることを願います。

 

「演劇ドラフトグランプリ2022」の配信はこちらから

www.theater-complex.town

 

余談

この写真好きすぎる。

*1:

演劇ドラフトグランプリ | シアターコンプレックス

*2:

柿喰う客

中屋敷さんだけ参照がない感じになったので、柿喰う客を貼る

*3:https://twitter.com/butai_basara

2.5の殺陣舞台の先駆者は西田演出の舞台『戦国BASARA』と信じてやまない。跡地のTwitter Xを置く…

*4:

『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage

*5:

舞台「薔薇王の葬列」公式サイト

このクレジットで西田大輔じゃないんだ!?となったのが懐かしい