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舞台『ねじまき鳥クロニクル』感想

……ここに来て、途中まで書いていたブログが真っさらになったという初歩的なミスをするとは思いませんでした……というわけで、とりあえずねじまき鳥クロニクルの感想は残したいと思ったので、当初の内容とは変わる気はしますがちまちまと……だいぶ萎えちゃったので、今後は絶対にやらない……

 

youtu.be

https://horipro-stage.jp/stage/nejimaki2023/

https://natalie.mu/stage/news/548076

舞台『ねじまき鳥クロニクル

演出・振付・美術:インバル・ピント

脚本・演出:アミール・クリガー

 

愛知県刈谷市総合文化センター アイリスにて観劇。綿谷ノボルのWキャストは、大貫勇輔さんでした。

村上春樹の原作小説は未読のため、物語に関する感想はあまりありません。というより、初見で村上春樹の物語が噛み砕けるとは思っていなかったので、予想通りの難解さでした……

 

アーティスティックで不思議な舞台空間

観劇前からインタビューなどで、インバル・ピントの独創的な世界観による舞台演出がすごいということは把握していました。インバル・ピントの作品や略歴は存じ上げていなかったので、『ねじまき鳥クロニクル』を初見にしたのですが、先入観無しに衝撃を体感することができて本当に良かったと思いました。

 

まず、舞台装置について。ロビーに同じ舞台模型と、触っちゃダメなのほうの舞台模型が展示されていました。アイリスホールも何度か足を運んでいるんですが、こんなに舞台って広かったのかと思うぐらい、奥行きが広く感じました。おそらく、一点透視になっているのと傾斜になっている床で、実際よりも奥行があるように感じるのだと思うのですが。

場転も壁で横に区切るようにして転換してとてもスムーズだったのですが、その壁もかなり不思議に見えました。というのも、壁の隙間という隙間から、絶え間なく人間がぬるぬると出てくるんですね。もう「ぬるぬる」という言葉が的確でした。席もかなり前の位置で見ていたんですが、本当に隙間から出ているように見えて、不思議で仕方ありませんでした。

 

ぬるぬると人間が出ると言ったように、この舞台の1番特徴的な演出が、コンテンポラリーダンスがセリフと同時に行われていること。時に役者も、コンテンポラリーダンス的な身体表現を用いながら台詞を言うことも多くありました。

(20年の時の記事ですが演出は同じです)

この場面は特に驚きました。5分ちょっとぐらいの2人の岡田トオルによる独白場面を、組体操のように身体を絡ませながら行っていました。成人男性ってそんなに軽いんですか?と動揺……全体的にリフトとか人を持ち上げるような演出が多かったなあ。

前後しますが、この岡田トオルの独白場面は特に好きでした。岡田トオルを2人で演じることで、現実の姿と、より内省的な部分での切り分けができていて面白いなと思いました。一幕ではリビングの場面など、対照的に見せつつも内省的なほうは違う動きをしているなど、興味深い演出でした。

その他印象的に残った演出だと……牛?あれは牛でいいんですか?すごかったな……(ヘラジカらしい)

 

役者とダンサーが対等な空間

私が見ている頻度が多い舞台の傾向なので一概にも、日本の舞台は主語を大きく言えないかもしれませんが、メインキャスト至上主義、スターシステムみたいな色は強い傾向にあると思います。というのも、一部客層においては、それなりに観劇回数を重ねていても、平気で「アンサンブルやダンサーは添え物」といった感覚があるのを、昨今目の当たりにしている故の所感です。もちろん演出の仕方にもよると思いますが。

ねじまき鳥クロニクル』が提示しているのは、所謂台詞や役付きの役者には「演じる、歌う、踊る」という肩書き、ダンサーには「特に踊る」という肩書きを据えているところです。表現者としての分類という感じで、切り分けというような感じがしないのが秀逸だなと感じました。また、HP上では演奏者も含めてキャスト枠で記載されているのもボーダレス感があります。この作品における、複雑さや奇妙さを作り出しているのは、1に演出、2に原作と脚本、3にダンサーといった感じだったので、ダンサーがただ踊る人の枠組みには収まらないぐらいの見せ方をしていて、役者とダンサーが対等な舞台の形ってこうだな……と感じました。いまいち薄い内容でしか感想を述べられないのが惜しいです……

 

作品暴力性を正しく捉えられているか

漠然と村上春樹作品における性描写や、性体験の前における女性の主体性の無さみたいなのが苦手なんですが、元が元なので途中「生々しすぎて辟易……」となることがありました。しかし、特にクレタとノボルの場面なんか特にですが、性暴力の痛ましさをダンスによる抽象表現でオブラートに見せつつも、そこには非情なまでの暴力性と痛ましさがあるということ的確に表現できていて凄いなと思いました。

……だからこそなんですが、あえて残しますが、東京公演中に起こったねじまき談話室での発言の件にはガッカリでした。作品を見た上でより思いました。「その程度作品解釈か」と。本当に尊敬していた役者だったのと、且つその発言の裏には、これまで私も特に感心していた日本の演劇界への問題提起があったからです。これまで積み上げてきたものを、あんな発言で崩してしまうことに1番ガッカリしています。

しかし、それ以上に「今後一切見ません、嫌います」といったこともなく、板の上では一切妥協はない振る舞いと、演劇界への一部考えには変わらず支持はするつもりです。これを機に改めてもらいたい思います。

(と、同時にSNSの拡散怖いなと感じた出来事でした。一体、あれを見た人のどれだけが、該当の役者を知っていて、この舞台作品を知っていたんでしょうね)

 

やや暗い締めになってしまいましたが、私の今年の観劇納めとしてはとても充実した観劇体験でした!ちなみ愛知公演では、リピーターチケットが8000円で購入できるというお得すぎる取り組みをしていたのがハイライトでした。(リピーターできなかったのであまり大声言えませんが、)リピーター特典で舞台写真とかより、安く出します!が他の舞台でもできたら……そりゃ良いですよね……難しいでしょうけど……