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ミュージカル『伝説のリトルバスケットボール団』感想

ミュージカル『伝説のリトルバスケットボール団』(以下リトルバスケ)の日本公演は、2023年7月に1日限りのプレビュー公演を行い、2024年の2月より本公演が開幕されました。

プレビュー公演は、本公演の直前に行うことが多いものの本作はほぼ半年前に1日限り上演しています。この取り組みに関して、プロデューサーの深澤さんがお話しされている記事があったので紹介します。

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プレビュー公演を1回限り行うことで「予告編」が作れ、1公演10000円以上する演目への選択へのハードルを下げるという試み。「よくわからないものに一万円以上を事前に払っている」という、舞台新作が発表されるごとに舞台好きの間ではよく言われている懸念点をプロデューサーがきちんと汲んでいて、実際に行動に起こしているのはとても良いなと感じた。もちろん全ての舞台にこれをやれるとは思わないし、リトルバスケの規模感だからできた内容だと思うけど。

私も元々演目とキャストでプレビュー時より期待していたが、安心して行けるぞと思ったのは、韓国版のファンの方が日本版のプレビュー公演を観劇して、良かったとレビューを残していたことがあるので、私にとっても良い取り組みだったと感じている。

 

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http://littlebasketball.jp/

ミュージカル『伝説のリトルバスケットボール団』

作 / 作曲:パク・ヘリム / ファン・イェスル

演出:TETSUHARU

日本語上演台本・訳詞:私オム

 

草月ホールにて観劇。初めて入った劇場でしたが、キャパ500ちょっとのコンパクトなサイズ感で、1階席1番後ろの席でも、しっかりと舞台が見渡せる良い劇場でした。千鳥配列*1で前の人と頭も被らず安心で、椅子の座り心地も悪くなかったです。……ただ、最速でチケットを取ったと記憶してるので、最速で1番後ろか……という気持ち笑

プレビュー公演は見ておらず全くの初見です。以下、ネタバレありの感想になります!

 

韓国ミュージカルの吸収力の巧さ

韓国ミュージカルは「ウィーンミュージカルのゴシック&ロックの薄暗い空気感と、フレンチミュージカルのフィジカルで魅せる舞台を掛け合わせた、非常に味の濃い舞台(なおやや脚本にツッコミどころあり)」という勝手なイメージがあるんですが、本作はこの要素は珍しく薄かった。代わりに序盤から耳馴染む音楽と作風からこれだと感じるものがあった。

ミュージカル『ストーリー・オブ・マイライフ』だ。

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これは日本初演時に事前に紹介された韓国上演版のプロモーション動画。

ミュージカル『ストーリー・オブ・マイライフ』(以下SOML)は、ブロードウェイ初演の作品ではあるが、韓国では10年近く再演をし続けている作品。日本版はおそらく『スリル・ミー』と同じく、韓国版の良さを取り入れた傾向にあると思う。

リトルバスケは、SOMLの上演を経た韓国ミュージカルのオリジナル作品だという印象を受けた。主人公に語りかける快活な幽霊、主人公の生き方を見つめ直す成長譚、何より楽曲の雰囲気やメロディラインがSOMLを思い出すあたたかさがあった。

バンドメンバーもリトルバスケでは、キーボード、ギター、ドラム、ベースの4人組。SOMLは、キーボード、オーボエ、チェロの3人組で少人数編成。舞台上の見える位置にいるのも同じ。

韓国ファッションが日本でトレンドになっているように、韓国ミュージカルもここ数年日本でも多く影響を出していると思う。私がパッと思いつくだけでも、『フランケンシュタイン』『ダーウィン・ヤング』は韓国オリジナルのミュージカルだし、MAこと『マリー・アントワネット』は初演こそ日本だが、再演されている新演出版は韓国での上演のものである。ミュージカルを筆頭に舞台芸術に特に力を入れているのがよくわかる結果だと感じる。すでにミュージカルとして出来上がった型を上手く踏襲しつつも、新しいファッション性やマーケティング力などの強みを織り交ぜているからこそ韓国ミュージカルは強いのだと思う。

それが、リトルバスケのような小さい規模感でも発揮できているのがすごいと感じた。

 

まっさらな気持ちで観劇をしよう

これは今回の私の大いなる反省点なので、見出しに掲げます笑

最近、末満作品に浸かりすぎたり、ミステリーサスペンスが好みの傾向にあったりするせいで、なんていうか「答えを探す」ような見方をしてしまっていた。というのもあり、序盤中盤は穿った見方をしそうにもなった。観劇後の気持ちの良さも相まって、この見方はこの作品においては間違いだったなと反省をした。こういうことがあるから、なるべくジャンルに偏りのない観劇鑑賞が必要なんだぞと感じる笑

もちろん答えを探すような部分もある。「何故、3人は成仏できない幽霊なんだろう」は特に気になる点で、ダイン(梅津瑞樹)の父親との場面あたりから、こうじゃないだろうかと考えるだろう。そういう、観客視点での見方はもちろん大切だし、初見なら特に気になりながら見るところだと思うが、スヒョン(橋本祥平)の生き方と成長応援するような見方をというか……あまり考えすぎずに見るっていうのも大事なんだと感じた。

それぐらい、リトルバスケは観客がわざわざ解釈を広げずとも、キャラクターのストーリーがきちんと補完された丁寧な作品だったからだ。

「青春」と一言で片付けてしまえば簡単だけど、このストーリーを振り返ると「青春」という言葉が1番しっくりとくる。

冒頭にスヒョンが自殺しようとしたところ、幽霊3人組に助けられるところからはじまる。幽霊3人組は、スヒョンに親身になってなぐさめるのではなくむしろ逆で、死ぬぐらいだったら「俺たちの願いを叶えてくれ!」とスヒョンに憑依し、バスケを始めさせることとなる。誰かの苦しみを軽視するような言い方にはなるが、その自殺願望は実は大したことないし、解決策は割と身近にあって、見方さえ変えれば何とかなる……ということは往々にあると思う。幽霊3人組の強引さは、15年幽霊をやっているからこその、ある意味での大人の落ち着いた視点のようにも振り返って感じた。青春その① 衝動性。

もう一つ、後半のストーリーの軸となるのがジョンウ(平野良)のバスケへのこだわり。幽霊3人組とジョンウは、15年前に同じリトルバスケットボール団の仲間であったこと。海合宿の際に、3人は海難事故に巻き込まれて亡くなってしまい、後悔を引きずったまま同じ学校でバスケのコーチを続けていること。もちろん事故はジョンウのせいではないが、1人生き残ってしまったら後悔の念を感じずにはいられないのが人間の弱さ。バスケを続けるのも、3人のことを思い続けてのこと。青春その②逃避性。

スヒョンと幽霊3人組の出会いが、スヒョンに前を向く強さと友達が欲しいという願いを叶え、ジョンウの15年の後悔に寄り添い希望を伝え、幽霊3人組も諸々の後悔から解き放たれ成仏することができる。何よりこの作品の終わりで好きなのが、スヒョンにとっての友達が、幽霊3人組との交流を経て、サンテ(太田将煕)という人間に辿り着くところ。このサンテも、人間に興味がないと殻に閉じこもっていたところを、スヒョンと友達になる成長を見せていたのも魅力があった。どの人物を見ても綺麗に収まっているのが素晴らしい。フィクションだからこそとも言えるけど、隙がなく希望を提示できていて観劇後の心の晴れやかさが清々しかった。

 

少人数精鋭とはいえ濃すぎる

私がよく知ってる俳優でも、橋本祥平さん、梅津瑞樹さん、糸川耀士郎さん、平野良さんって、芸達者の意味合いで「面白い」と評される人たちが揃っているんですよね。加えて、ミュージカルなので、当たり前にみんな歌が上手い。太田将煕さんは過去1作見た以来ですが、その時も歌が上手いなという印象だったので、納得のキャスティング。キャストの中で1番若い、吉高志音さんだけは初めましてでしたが、お歌の上手いし面白枠としてもバッチリ。

糸川さんはバスケが上手いというのも知っていたので、特にバスケ場面で光る印象。ダンクシュートができる、スンウというキャラクターもピッタリ。インタビューでも書かれていましたが、バスケが題材ということで特に力を入れている作品とのこと。

平野良さんも、こういう重要な役どころも兼ねる大人の役が板につき、後半ジョンウの場面での芝居と歌の説得力には泣かされました。またジョンウの過去回想で、若い日のジョンウは橋本さんが兼ねていたのも面白い演出でした。あくまで平野さんのジョンウは、歳を重ねた落ち着きのままでいることが良かったです。

個人的に特別好きな役者が梅津瑞樹さんなんですが、本当にメリハリの付け方が上手い。パンフレットのインタビューを読んでやっぱりとは思ったけど、ダインのキャラ付けのアレンジは、梅津さんのアプローチも多いとのこと。幽霊3人組のコミカルさや、悲しい場面でも重すぎない空気の作り方、それでも心に響く諭し方の全てのバランスがうまかった。……なお、コミカルな場面での、動作が「なんかおかしい」気持ち悪さはもはや賞賛に値する。

そして、主人公スヒョンの橋本祥平さん。こういう主人公系が様になるのは「持っている」人だなと感じる。声質もかなり独特なほうだと思うのに、歌も綺麗で通るのがすごいなと劇場に来て感じました。スヒョン、若き日のジョンウの演じ分けも自然で良かったです。

昨年旗揚げ公演を行った、梅津さんと橋本さんの演劇ユニット「言式」を応援しているので、ここで紹介します。

kainashi.com

 

……さて、上半期の観劇のなかでもかなり満足度の高いものとなったリトルバスケ。予定さえ合えば、3月には大阪公演があるのでもう一回観劇して、ストーリーや演出を復習してから感想を残したかったところ。

とはいえ、昨今より思うようになったのが「もはや複数回観劇などできない」という現実である。チケット代は10000円からが当たり前になってしまった今日、一回の観劇でどれだけ持って帰れるかが肝になってきている。だが、私という人間のスペックはまあまあ底辺なので、一回じゃなかなか整理できない。リトルバスケは、リピーターチケットを案内していて、特典がブロマイドだったが、例えば5%OFFのチケット価格とかはできないだろうか……流石にそういう身の切り方はできないか……もしくは、プロモーション動画も出せていることだし、配信はできないだろうか。それぐらいもう一回見たい作品である。

 

2月26日 追記 大阪公演の配信が決まりました!

 

*1:草月ホール、座席表見る限り前方3、4列は千鳥配列ではないそうです。