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宝塚月組『Eternal voice 消え残る想い』『Grande TAKARAZUKA 110!』感想

ようやく宝塚大劇場で宝塚を観劇できました……! 何度かブログでも書いていますが、宝塚観劇にブランクができてしまったので、久々の大劇場は楽しかったです。やはり、宝塚はムラが一番ですね。最近でも花組さんの突然の休演や、月組でも凛城さんは長期休演や下級生、初舞台生の休演もあったので、無事に観劇できるまで安心していられない心構えでした。何とか無事に最後まで見ることができて一安心です。このまま、東京宝塚劇場の千秋楽まで無事に幕を開けられますよう……

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https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2024/eternalvoice/index.html 

月組公演

ミュージカル・ロマン『Eternal voice 消え残る想い』
 作・演出:正塚晴彦

レビュー・アニバーサリー『Grande TAKARAZUKA 110!』
 作・演出:中村一

 

宝塚大劇場にて観劇。配信見て整えてからにしようか迷いましたが、観劇時の印象のみで感想をまとめます。月組を観劇した日の数日前が、音響バランスが残念だった雪組の全ツだったので、音も視界も不自由な点がまったくなく、宝塚大劇場のありがたみを感じました。誇張抜きに、日本で一番良い劇場は宝塚大劇場だなあと思うこの頃。

 

『Eternal voice 消え残る想い』

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今回どうしてもムラで観劇したかったのは、月城かなとさんと海乃美月さんの退団公演だからです。とても好きなコンビなのにも関わらず、色々あって観劇は今回が最初で最後となってしまいました。振り返れば、「ちゃんと観劇すればよかった」と思わないことはないのですが、「今回観劇できてよかった」の気持ちで満足していますし、何より、退団公演がこの作品でよかったと思いました。

宝塚の強みは座付き脚本・演出家による、当て書きが可能なところ。宝塚が110年培った「宝塚らしさ」や、その時々のスターや組に合ったオリジナル作品が好きです。今回はトップの退団なので、より彼女たちだけの役で、あの二人らしさを感じて気持ち良かったなと思いました。反面、やや時代背景・宗教背景が掴みにくく難しいと感じたり、やや物足りない感じがしたり、個人的なイメージとしては、良かったところと物足りなく思ったところ合わせて、「だいきほ」の退団公演と同じ感覚がありました。『fff』も、「ようやく「だいきほ」で上田久美子さんの作品だ!」という期待値が異常に高かったせいか、ちょっと物足りないかも……と思ってしまった派だったので。語弊なくを補足すると『fff』も退団公演として良い作品でした。

本作の正塚晴彦さんですが、多分通しで見たことあるのは、映像で『私立探偵ケイレブ・ハント』を見たぐらい。しかもだいぶ前なので印象が薄いのですが、その他の作品の雰囲気も含め、会話劇の面白さ小コミュニティの濃厚な関係性といったイメージ。その印象通りの作品で、作品だけで言ったら好みの傾向ではあるんですが、宝塚大劇場でやるには箱がでかすぎるかなという印象は否めませんでした。KAATやドラマシティぐらいが丁度よさそう。ですが、大劇場だからできる演出には奮闘しているなという感じはあって、正塚さんも大ベテランにも関わらず、プロジェクションマッピングなど映像演出に挑戦するという気概には、かっこいいな~と思いました。映像演出も過剰感も無く、綺麗に見せているなという印象がありました。

これが「正塚節」か!と、正塚脚本の個性がちゃんとわかった台詞の数々。私はめちゃくちゃ好みですね。仰々しいわけでもなく、キザでもなく、かと言ってナチュラルかと言われるとそうでもない。小劇場っぽいっていうのが一番近いですかね。会話の中における「え?」の頻度が多い気がする。あとは、軽妙な小ボケ相槌の多さ。「芝居の月組」と長く言われているのもあり、芝居が巧くないと成り立たない台詞芝居にあっぱれでした。

肝心な内容ですが、やっぱちょっと踏み込むには自信がないので、役者の印象感想のみで……泣 教養か、それとも脳の器用さか……悔しいです。感想ブログを見ていたら、こちらのブログがとてもわかりやすくて、時代・宗教背景について助けられました。とても参考になりました、ありがとうございます。

waffleandtakarazuka.hatenablog.com

 

ユリウス / 月城かなとさん。アデーラ / 海乃美月さん。 個別ではなく二人でまとめたくなるぐらい、本作何よりも良かったのは、「共に生きるパートナーとして、横並びに歩く」終わりだったこと。もはや終わりと書くのが無粋に感じてしまうぐらい、ユリウスとアデーラの出会いの話であり、二人の未来が見える物語。むしろ、二人はここから次の世界を迎えるはじまりの物語でもあると感じました。こうやって書くと、それはお披露目公演ではという感じがしますが、そうではない。正塚先生が挨拶文でも「月城海乃をイメージして書いた」と仰っているように、これまでの二人の道のりがあったからこそ作り上げられる代物。あの後、二人が一緒に歩む道なら絶対に幸せなはずだとそんな希望がわくのは、これまでの月城海乃が見せてきた世界があったからだと思いました。やはり、当て書きオリジナル作品はこれだから素晴らしい。二人がお美しいのは、もう言うまでもないですが、アデーラの長いブロンドが様になりすぎている海乃さんが特に綺麗、輝いていました。強気でやや突拍子もない役柄ですが、徹頭徹尾、品があるのは流石です。月城さんについて、個人的な好みは『BADDY』のポッキー巡査とか『今夜、ロマンス劇場にて』の牧野健司とか、ドジっ子風味のある優しい人なんですが。多分、今のトップスターの布陣だったら、ド正統派が似合うと実感しました。ユリウスはとても素朴な人で、これといった大きな特徴や個性があるわけではないなと思うので、月城が積み重ねた男役の美学と芝居力あっての役だなと感じました。

ジェームズ / 佳城葵さん。 今回の個人的MVPです。代役なので諸々複雑ではあるものの、代役だからこそこのクオリティはすごい。私は佳城さんのこと、芝居マニアなんじゃないか?と思うぐらい、芸達者なジェンヌさんだなと長らく思っています。『A-EN』を見たときから。『A-EN』の頃なんて3、4年目ぐらいなんじゃないか?月組に佳城葵というタカラジェンヌがいてこそ、芝居の月組だなとすら思っています。私が観劇したのは、大劇場期間もだいぶ終盤なので、もう本役じゃないかというぐらいの回数を重ねた時期でしたが、個人的MVPに名前を挙げるぐらい印象的でした。剽軽なタイプのキャラクターで味が出るなあと再確認しました。そんな佳城さん、本役はセバスチャン(代役:大楠てらさん)なのもびっくり。あまりにも正反対な役過ぎて気になる。というか、大楠てらさんのセバスチャンの二次元のようなシルエットの存在感もすさまじかった。凛城さんの長期休演がかなり不安ですが、東京公演では凛城さんのジェームズで、本役の布陣でも見たいですね。

エゼキエル / 彩みちるさん。マクシマス / 彩海せらさん。 元雪組ペアが面白い役どころでしたね。『ルパン三世』で望海さんが演じていたカリオストロを思い出すような仰々しい役。高カロリーで大変な役だなあと思うので、毎回こなしているお二人には拍手。ちょっと可愛げもあるポジションでもあるので、つい目で追ってましたね。彩さんも彩海さんも元々好きなジェンヌさんなので。月組に異動してからはリアタイで見ていないのもあり、特に彩海さんは今まさに可能性が広がっていく時期だと思うので、今後がより楽しみになりました。彩さんは、本当に器用で何でもできる娘役さんだと改めて実感したので……トップになることがすべてではないとは言えど、あまりにももったいないので……どうか、なにとぞといった気持ちです。

特筆は上記ぐらいです。もちろん、鳳月さん、風間さんあたりは芝居の月組たる安定感があって良かったですし、天紫さんはややキツめで強気な女性像が似合うなあと思いましたし、キリングマシーンにカッコイイ娘役がいるぞと思ったら、きよらさんでちょっとびっくりしたり、終盤のメアリー(白河りり)とアンナ(麗泉里)の場面も迫力あってよかったなあと思いました。メアリーとアンナはもう少し場面が欲しかった気がするような。

 

『Grande TAKARAZUKA 110!』

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でました!Don’t stop 人海戦術中村一徳ショー

1、2を争うぐらいヘビロテしたショーが中村さん演出の『Dramatic ”S"』なのもあり、大好きなんですよね。しかも、月城さんがスカステのトーク番組でもゲストに呼んでいた早霧せいなさんのサヨナラ公演が、『Dramatic ”S"』だったので、雪組の縁も感じて胸熱でしたね。そして、本作『Grande TAKARAZUKA 110!』ですが、どこを切り取ってもどの角度から見ても、文句なしの「最高ショー」でした!

中村さんもパンフレットの挨拶で触れていたように、月城海乃サヨナラ公演・110期生の初舞台作品に加え、宝塚110周年を祝うショーという3本柱で、中村さんのショー演出家の手腕が試される公演です。そして見事にこの3本柱をしっかり演出し、且つ、トップ2人以外の退団者にも花を持たせ、今の月組メンバーそれぞれに見せ場があり……え?すごいですね?笑 ほんとうに素晴らしかったと思います。

 

特に印象に残った場面の感想をば。

第1章 プロローグ 先にどうしても気になってしまった点が海乃さん以外の娘役さんたちの衣装……スカートが黄色に真ん中部分が茶色なのが、あれは良いのか……?いまいち綺麗に見えなくて気になってしまった。海乃さんのキラキラドレスが可愛いだけに! プロローグの印象的な場面、(多分)鳳月さんが銀橋でソロ歌っていた場面の舞台の男役さんたちなんですが、夢奈瑠音さんがセンターで踊っていたのに感慨深い気持ちになってしまった。

第3章 アヴァンギャルド! 私の彩海せらさんのハイライトはここでしたね。彩海さんしか見てないってぐらい、固定カメラしてました。お芝居とは打って変わって、ギラギラな登場と終始イケ散らかしてるカッコよさが魅力的でした〜!いや〜本当に私が知らない間に、超カッコいい男役さんになっていた。これからがますます楽しみですね!

第4章 ルナ・ルージュ ここはもう海乃さんと佳城さんの同期ペアの銀橋デュエットでしょう!本当にありがとう!中村さんのショーといえば、退団者の見せ場や同期の絆の場面を大事にしている印象が強いので、ここは特に胸熱でしたね……

第5章 タカラヅカ110! 実は宝塚大劇場の初舞台生が出演する舞台は今回が初めてでした。口上挨拶も「やはり“西も東も分からぬ若輩者”なんだ……」と謎に感動したりしましたが、初舞台生ロケットは圧巻でしたね!陣形とか技とかリズム感とか……すべてがハイレベルに感じました。さながら体操部の全国大会のよう……とても立派だった110期生の皆様がこれから素敵な舞台人生が送れることを切に願うばかり。

第6章 SETSUGETSU 雪月 本作のサビはここでしょう。圧巻でした。タイトル通り、雪組月組を辿ってきた月城さんならではの、静けさの中の澄んだ美しさが光るような場面でした。「荒城の月」というチョイスもまた雅でよろしい。最後に長いお召し物を伸ばし月の方角へと登って行く……かぐや姫かな?と思いつつも、でも確かにかぐや姫が月へと帰ってしまうような物悲しさすら感じた場面でした。

さて、掻い摘んではこの程度なのでだいぶ偏った感想ではありますが、月組の皆さんそれぞれに見せ場があり、3本柱のテーマもバランス良く感じて、大変楽しいショーでした!また見たいけど、次見る時は東京宝塚劇場の千秋楽配信、つまりラストデイだなあ泣

 

最後に、本作を文句ないとは言いましたが、どうしても1個だけどうしようもなくもやってしまうことはありました。このタイミングで「タカラヅカ賛美」のショーを上演するということです。昨年から決まっていた演目だった、すべての組が喪に服すべきとは言わない、とは思いますが……宝塚歌劇団を諦めたくはないといえど、「夢の世界・宝塚」を今歌うには100%賛同できないというのが正直な感想でした。現状、宝塚歌劇団はどうも中途半端で、無神経・無頓着というのがどの面からみても明らかです。この先も、宝塚が110年築き上げてきた良き伝統は、これからも継承してほしいです。だからこそ、もう少し状況を俯瞰視して、けじめの姿勢が見られたらなと思います。