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舞台『BREAK FREE STARS』感想

「ヒプステ卒業騒動」から1ヶ月弱、ヒプステに馴染みのあるキャストスタッフ陣によって作られた、HIPHOPダンスエンターテイメント。

改めて、植木豪さんを筆頭にしたこのキャストスタッフ陣は、HIPHOPが持つ素晴らしさや底力を心の底から信頼しているのだろうと実感した。

 

https://www.nelke.co.jp/stage/breakfreestars/

舞台『BREAK FREE STARS』

演出:植木豪

脚本:亀田真二郎/大西雄仁

IHIステージアラウンド東京にて1回観劇。配信も視聴済み。

 

“Hip hop is not a crime!!!”

豪さんが見せる演出の派手さとパフォーマーの魅力が、ステージアラウンドというアトラクション性の高い箱との相乗効果で、密度は濃く、熱量の高いエンターテイメントショーだった。

この作品の主人公は間違いなく「HIPHOPとダンス」である。 HIPHOPを愛する若者たちが、言語を超えた絆や誇りを身体で表現し、HIPHOPへの勝手な偏見を持つ者たちをも巻き込む。HIPHOPとは、自由を謳歌するカルチャーでもある。……私自身、あまりHIPHOPやダンスカルチャーについては、詳しくはないのだが、ヒプステでもよく言われていた「全てを吹き飛ばす力、それがHIPHOP」とはつまりこういうことか、と納得した。

 

そう、言語を超えた絆や誇りを身体で表現しているからこそ、ストーリーや台詞のチープさや、ツッコミどころが、浮き彫りになってしまったと感じてしまった。

後述するが、元となっている『BREAK FREE』はノンバーバルダンスショーであったという。(ノンバーバルダンスショーといえば、今年は梅棒の『曇天ガエシ』を観劇したのだが、今年の観劇して良かった作品の5本の指に入っている)

 

『BREAK FREE STARS(以下、BFSTARS)』も、その体でも良かったのではないか、もしくはもう少し踏み込んだ話をしても良かったのではないだろうか。

観客はHIPHOPが馴染みの薄い人が多いかもしれないが、観劇や物語に触れることに慣れている人が多いはずだ。「なぜHIPHOPは一方的な偏見で「怖い」と言われているのか、それを裏付ける具体的な事象は?」「HIPHOPを愛した人間が、突拍子もないルールに丸め込まれるのはどんな原因があったか? またHIPHOPにまた還るには何に突き動かされたか?」ストーリーと台詞がある以上、この辺りはもう少し丁寧に描いて欲しかったなと感じた。

……つまり、アース(木村慧人)の生い立ちの暗さが独白される反面、物語の主軸のはずの、ソーマ(阿部顕嵐)が刑務官になった理由がすっ飛ばされているのが気になって仕方がない笑

このままじゃ、ソーマの妹が政府に拉致られたみたいな、どっかで聞いたことあるような設定を脳内補完しないといけませんが!?となってしまう笑*1

 

また、踏み込んだ話という点で、プログラムにも書いてある日本の風営法施行に伴いダンス規制「ダンス禁止令」が問題提起となっているのであれば、ストーリーのチープさによって「トンチキ」 と言ってしまうには、失礼なんじゃないかとも思ってしまった。

メモがてら、問題提起にあたるであろう実際のニュースと、そのニュースの内容を指摘したブログを参照に貼っておく。

「ダンス禁止」の張り紙再び 警察から指導「時代が戻ってしまったよう」

ダンスはなぜ今も風営法でも規制されているのか - 電子計算機舞踏音楽

 

『BREAK FREE』とは

植木豪(PaniCrew)演出の最新作「BREAK FREE」が史上初の「BEST PERFORMANCE賞」受賞! | | Dews (デュース)

BFSTARSは、2018年に上演された『BREAK FREE』元となっている。同じく植木豪さんによる演出作品で、BFSTARSにも出演しているダンサーだと、Toyotakaさん、HILOMUさん、GeNさんが出演していた。先述したとおり、ノンバーバルダンスショーとして上演されていたこともあり、『エディンバラ・フェスティバル・フリンジ』にて受賞された作品でもある。

おそらく、脚本の付いたBFSTARSとはかなり毛色の異なる作品なのかもしれないが、ティザー映像でもわかる範囲だと「囚人と警察の衝突による脱獄劇」「脱獄を図る囚人は5人」「警察役もアクロを得意としたパフォーマー」「パン(笑)」など……元になった要素はしっかり踏襲されているんだろうなと感じている。……この機会にぜひ本編映像を出してくれないだろうか……(アンケート記載済みです)

 

ヒプステから植木豪さんをはじめダンサー陣を知った私にとっては、この作品は非常に興味のある作品だった。ティザー映像からも分かるとおり、『BREAK FREE』で培ったものがヒプステにつながっていて、まさにヒプステの構想の原点のような作品だと思っていたからだ。

そんな作品が、ヒプステを筆頭にできた新しい縁を連れて、進化した形で舞台が作られたことは、ありきたりな言葉にはなるがまさに「エモ」だ。

 

ハプニングではあったが、初日にシャイン役の宇佐卓真さんが出演出来なかった代わりに入ったのが、『BREAK FREE』では出演もしていた豪さんだったという事実をも残した。初日映像として、豪さんの出演の様子が残されているので、その貴重さを噛み締めた。

 

魅力的な「ヒップホップスター」たち

ヒプステに馴染みのあるキャストスタッフ陣が多くいるが、座長アース役はLDHの若手パフォーマー木村慧人さん(FANTASTIC from EXILE TRIBE)、対立するもう一人の主演は阿部顕嵐さん(7ORDER)である。日本のアイドル性のあるアーティストの面白い組み合わせ。ややアウェイ感のある慧人くんが、見慣れた植木豪演出の空間に新しい風を吹かしていてとても良かった。何より二人とも華がある。華だけは、テクニックを極めても補えないものだと思っているので。

 

ダンススキルに比重のある舞台ゆえに、芝居力で光っていたのが、クガ刑務局長役の高橋駿一さんや、ホーイチ役の後藤大さん。

クガ刑務局長が場を統制するたびにピリッとした空気感が出る。ビジュアルも特に良かったので、連日のように個人ブロマイドが完売するのも頷ける。アクロやダブルタッチも迫力あったなあ。4列目あたりで見ると、アクロで客席に落ちてくるんじゃないかってぐらいギリギリを攻めててすごかったな……

ホーイチ・後藤大さん、彼の芝居力はアドリブの頭の回転の良さや器用さ、突飛な役どころの掴みが光るところではあるけど、まずシンプルに滑舌が良い。それがラップ担当なのもあってよくわかったなあ。声が通る通る。

 

ヒプステDDBとして馴染みのあるダンサー陣も役付きでのキャスティング。中でも、Toyotakaさんはユーサク役として通しキャラクター。『BREAK FREE』でも囚人役として出演していたToyotakaさんが、脱獄5人組に入っていたのは胸熱。メガホン型のマイクを使ったビートボックスは流石の見せ場。

また、RYOさんもキョウ役で個人ブロマイドも出るようなキャスティング……なんですけど、各所でも言われているように、先行ビジュアルとあまりにも違いすぎるのは残念すぎた…… オタクはシャツネクタイにスーツベストで踊るインテリ囚人が見たかったよ…… これに期待していたオタクはかなりの数いると思うので!その辺のメンタルケアを!(物販買え!)(買ったよ!)

そう、RYOさんとHILOMUさんは個人ブロマイドが出るような扱いだったけども、通し役では無かったし、HILOMUさんにいたっては台詞は最初ぐらいという……何故……

シシド刑務官(神谷亮太)とイガリ刑務官(河島樹来)のが台詞もあったし印象に残ったという……神谷さんと河島さんも持ち前のスキルを活かしたパフォーマンスがかっこくて、即SNSのフォローするぐらい気にいってしまった。KYOTO SAMURAI BOYSの時に配信を流し見をしたのが悔やまれる。でも良い縁ができたと前向きに捉えよう。

 

1時間半のあっという間のステージでしたが、熱量とパワーに圧倒された期待どおりの楽しいエンターテイメントショーでした!

現地のライブ感が最高の舞台ではあるものの、配信は配信で楽しめますので是非に〜

11/12までです〜

www.theater-complex.town

*1:

追記:11月7日

ソーマについて。「俺たちと踊ってたソーマが急に刑務官になってHIPHOPは害悪とか言って…お前どうしたんだよ!?」の図にどうしても見えるんだけど、「ソーマは始めから刑務官で友人のアースのおかげでHIPHOPが好きになったけど、ある日条例ができたせいで、取り締まるしか…」と考えれば、ある程度のソーマの立場は理解できるのか……とようやく気づいた……

いやそれでも、例えば冒頭の電話の場面で、クガ刑務局長からだとわかる描写とか、説明台詞くさいけど、「刑務官である俺は」ぐらいの枕詞を挟んでも良かったと思いますわ…