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ミュージカル『フランケンシュタイン』2025年版 感想②

返す返す愛知公演に、もう一つの正ペア(この言い方が正しいか不安)である小林・島回が無かったことにもどかしさを感じます。愛知の芸劇のデカい箱じゃ、新ペアだと埋められないだろう、ベテランキャストの片方がいればある程度集客を見込めると……思っているんだろうな……いやでもさ……正ペアなんだからやっぱりやって欲しかったですよ。……というわけで、神戸まで足を運び観劇した小林・島回の感想です。

今回の中川・加藤回の感想はコチラ。

charmy-coroge.hatenablog.com

 

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https://natalie.mu/stage/news/619513
https://www.tohostage.com/frankenstein/

ミュージカル『フランケンシュタイン

音楽:ブランドン・リー
脚本・歌詞:ワン・ヨンボム
潤色・演出:板垣恭一
訳詞:森雪之丞

 

神戸国際会館 こくさいホールで観劇。とにかく音が良かったです。3階の1列目での観劇でしたが、バーが舞台上に被ることはなかった(オケピに被る位置だった)ので、ストレスもなかったです。ただその分、バーが低く通路も狭かったので、前に人が通ると結構怖いです。

 

小林亮太(ビクター/ジャック)× 島太星(アンリ/怪物)

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役者の実年齢で発揮される若さと青春。芝居や技術面の惜しさが加速させる危うさ。これからお二人はどんどん良い役者になっていくだろうという期待が感じられたからこそ、この若さと拙さは、まさに今この時にしか見ることができない、希少価値の高いペアでした。ゆえに、このペアから受け取った印象は「脆さと儚さ」でした。

……と同時に改めて本作の難しさを痛感しました。多分この二人が例えば『スリル・ミー』とかだったら、もっと満足して見れたかもしれないけど、『フランケン』では「惜しいなあ」という感想が先行しました。ツッコミどころがやや多く、割と不親切な戯曲だからこそ、役者個人や役者間での役の作りこみや波長の合わせ方で、訴求するものが強くなければ着いていけない。楽曲のパワーが強いから、歌い上げられないと曲の強さに役者が負けてしまう。だから、ミュージカル経験が浅い若手には暫し酷な演目では?と申し訳ないけれど思ってしまったのが正直なところです。もちろん本作はビクター、アンリともに、おそらく若い男の設定だと思うので、若手でもやってもらいたい演目ではあります。だからこそ、要所要所、小林・島ペアには「こういう『フランケン』が見たかった!」と思うところがあったのも事実です。

そう、特に小林・島ペアは1幕が良くて、1幕終わりには「やぁ~っぱ『フランケン』最高」と思いながら休憩に入り茶を啜っていたので。……多分、『フランケン』って2幕をいかにしんどく見せないかが肝だと思うんですよね。最初に見た5年前、私個人的には闘技場の場面が色々としんどくて、そこから怪物の復讐もわかんないなあと思いながら見てたので、ここ最近『フランケン』の円盤を見倒してやや麻痺していたところ、ここに来て初心に立ち返った感じがありました。単刀直入に言うと、怪物の役作りと周りがその怪物をどう扱うかにかかってるんですよね。そしてこの怪物という役がめちゃくちゃ難しい。なぜなら、怪物だから。島さんはアンリがめちゃくちゃ良かっただけに、怪物はもうひと超え何かが欲しいなと正直思いました。そしてその怪物をどう見ているかという、ビクターのあり方ももうひと超え欲しいなと思いました。……比較はナンセンスとはいえど、あえて言うなら、加藤さんが怪物の芝居が絶妙なんですよね。逆に、加藤さんはアンリの眩しさを軽々と超すぐらい、怪物の怒りと憎しみを纏った姿が様になりすぎて良すぎる。

そんな小林ビクター、島アンリの1幕ですけど、本当に「束の間の青春」すぎて、久々に「君の夢の中で」で泣くかと思いました(泣いてない)。小林ビクターは、負のオーラの色が虚無。母親を失い、周囲の人々から罵倒され否定された幼少を過ごしたからこその虚無と脆さ。しかし、本当は周りが誇大表現するような天才でもなければ、人格破綻でもない。人並みに傷つき、人並みに笑うことができる素朴な人間。アンリという唯一無二の理解者に出会えたことで、ようやく肩の力を抜いて話し合える友ができたんだろうなと。「僕のこと知ろうともしないで」あたりの台詞がとても説得力がある。島アンリは根っからの人の良さがあるからこそ、自分が行っていることやっていることを俯瞰視しつつ、どっちつかずでいたからこそ、小林ビクターの真っすぐさに魅了された人なんだろうなと。そしてこちらも、とても素朴な人間。そしてその仲睦まじさは舞台上では「束の間の青春」のごとく、一瞬で過ぎ去ってゆく、あまりにも儚い。

2幕については前述の通り惜しいにつきるんですが、1点めちゃくちゃ良かったのが小林ジャック。『フランケン』がメインキャストを兼ね役にしているところが、人間の二面性や醜さに訴えかけているのかな、とは思うんですけど、今まであまりこの演出にピンと来なかったんですよね。今回初めてこの演出がしっくり来たのが、ビクターとジャックのスイッチ。ジャックに「あり得たかもしれないビクターの姿」を感じました。負のオーラの色がビクターとジャックとで同じで、ジャックにも同じように虚無があったんですよね。これは良い見せ方だなと思いました。あとやっぱ小林さんは流石ダンスの人ですよね、めちゃくちゃキレがあって良かったです。ジャックの歌も、歌で魅せる中川さん、ダンスで魅せる小林さんと違いがあったのが良かったです。

 

「あの花」の話

 

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ついに演出の板垣さんから、舞台装置の「あの花」についての言及がありましたけど……前に「あの花」は特に意味はないと言って、一部の人を怒らせたんじゃなかったんじゃないですか?? ソースが見つからないのですが、過去ネット上で何回かこの件見かけたので、そっか~~くらいに思っていたんですが、こう改めて話が出ると、「やっぱあるんじゃん」とは思うので発言って大事だよね……とは思いました笑 だいたい舞台装置に意味が無いものなんて絶対にないじゃないですか。「あの花」については、印象的な場面でライトが当たるので、死者への手向けや命あるものぐらいには思っていました。板垣さんの話にある、『近松心中物語』からのインスピレーションは、日本演出ならではのエッセンスで良いなと思いました。……いいですよね、やはり創作って基本的に過去様々の創作のテクスチャーが何遍にも折り重なってできるものじゃないですか……そういうのを上手く取り入れて、見る側に「あっ、これは」と思わせるときに、創作の面白さの醍醐味が感じられて……

 

再演を5年待った今季の『フランケン』もついにフィナーレです。『フランケン』には『フランケン』にしかない旨味がある、特別な演目だと思うので、また劇場で見れる機会があったら嬉しいですね。あとは、やっぱり韓国オリジナル版の『フランケン』を通しで見たいです! 今年日本の映画上映の韓国ミュージカルがあるので、今後『フランケン』も同じように見れないかな……と思っています。主催が一緒だし、ワンチャンあるんじゃないかなと思って。

……あと、今しがた思ったことで、ようやく最初にも上げた、公式PV見たんですけど……今年のPVのセンスの無さ酷くないですか……というより、いつもの他舞台PVの安定の「作品の内容が何も伝わらない、役者紹介のつぎはぎ動画」って感じでガッカリです。……というのも、前回の『フランケン』のPVが2本とも「製作に強火フランケンファンがいるのか?と思うほどの熱量を感じるPV」だったので。期待していただけに残念ですね。各舞台製作は、2020年フランケンのPVを参考にしてくださいな。これこれだよ。

 

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